「……おはよう、ございます?」
「おはようございます、お水飲みますか?」
「飲みます」

まだふわふわと寝ぼけている真夜さんに水が入ったグラスを渡すと一気飲みした。
急に男らしくなりすぎないで。
さっきとのギャップの差にボディーブローを貰いました。
そんな攻撃力を受け止めらないので優しくしてほしい。

「もしかして僕寝ていましたか?」
「はい、ぐっすりと」
「明理さん凄い」
「なぜ?」
「初めて眠いと思いました、うまく眠れないことが多いので」
「え、そうなんですか」
「明理さん凄いですね」
「べ、別にそんなことないですよ」
「ごはん冷めちゃいましたか?」
「温め直しましょうか、冷めても真夜さんのご飯は美味しいですけど」

尊敬する人を見るようなキラキラとして目で見られてしまえば、先ほどの苦言もでてくるまい。
これが計算なら敵うわけない。正直満更でもないです。
寝てる間にラップをしておいた料理をキッチンに持っていき、レンジに放り込む。
レンジの軽快な音楽と共にきゅるるるる、と鳥が鳴いたくらい可愛い音がする。

「お腹が鳴りました」
「可愛く鳴っていましたね」

あれがお腹の音なのか。私なら掃除みたいな音なのに。
美形は身体の仕組みもどこか違うのかもしれない。
レンジをソワソワと覗く真夜さんの可愛さはとどまること知らない。
今日は真夜さん可愛いを極めた記念日かもしれない。後で手帳にでも書いておこうか。

「なんか早くご飯食べたいです」
「いつもより遅い時間ですもんね」
「僕、お腹も空いたことなくて」
「え?今までご飯食べてましたよね」
「時間で食べるようにしています」
「お腹が空くようになって本当によかったです」
「全部明理さんのお陰です」
「多分よく眠れたからだと思いますよ」
「違います。明理さんのお陰です」
「ありがとうございます?」
「明理さんといると毎日生きてるって実感します。いつもありがとうございます」
「私もありがとうございます、ですよ。真夜さんといると毎日が楽しくて仕事の疲れも吹っ飛んでいます」

突然のお礼合戦。なんだかくすぐったくて不思議な気持ちで二人顔を見合わせてくすくすと笑いあった。

「全部温められましたね。ご飯食べましょう」
「食べたいです」
「今日のご飯はきっと格別に美味しいですよ」
「明理さんと食べているご飯はいつも美味しいですよ」
「真夜さんずるい」
「本当のことです」

本当にこの人は私のことを理解しすぎている。
私に何を言えばご機嫌になるのか理解していて計算でもしているだろうか。
真夜さんの言葉はいつも宝物を貰っている気分になる。
そんなことを考えながら、いつものローテーブルに再度食事が並ぶ。
いつも作ってくれてありがとう、という気持ちで手を合わせる。

「いただきます」
「……いただきます?」

私の見よう見まねかもしれないが始めて真夜さんは「いただきます」と言った。
影響を与えている、なんて言い方はおかしいかもしれないが、彼の生活に入り込んでいるようで嬉しかった。
いつも以上に穏やかで優しい時間が流れているので、今日ならずっと聞きたかったことが聞けると思った。

「あの、真夜さんと私ってどこかで会ったことはありましたか?」
「いえ、ありませんよ」
「えーっと、真夜さんはどこで私を知ったんですか?」
「外出先であなたを見かけたことがあります」
「そこから恋愛ってスタートするんですね」

結構な人数を見かけることがあるだろうに。
その中から選ばれたことは嬉しいが、一体何が彼の琴線に触れたのだろうか。
疑うよりも不思議そうな気持ちが顔にでていたのか、真夜さんは秘密を共有するかのように、その心内を教えてくれた。

「あなたを初めて見た時、一緒に遊びたいと思いました」
「遊んでほしい、ですか?」
「はい、3か月前くらいですかね、外に出かけていたときに、迷子の子どもを助ける明理さんを見つけました。あなたが子どもに優しく微笑む姿に目が離せなくて。親が来るまで一緒に遊んでいたのが妬ましかったんです」
「うっすら覚えています」

そんなこともあった気がする。
ただの小さな善行だったが、あの時の私はこんなきっかけになるとは思いもよらなかっただろう。

「遊んでほしくて、一緒にご飯が食べたくて仕方ないので一生懸命調べました。2ヶ月前に見つけてそれからはどんな人なんだろうってずっと見ていたんです」
「ストップ」
「素敵な人でずっと見ていられました」
「ストップといいました」

きょとんとするな。
何か問題でもありますか?みたいな顔をされても問題しかない。
さらっとストーカーを2ヶ月間していたと暴露された本人の気持ちがわからないのか。わからないよなぁ、真夜さんだもん。
私たちの話で胸キュンエピソードは難しいのか。