「明理さんを見ているだけで胸がぽかぽかして、穏やかな気持ちになれました。こんな綺麗で優しい感情は今まで持ったことがありませんでしたが、直ぐにわかりました。あなたが愛おしいのだと。ただあなたの毎日が健やかで幸せで溢れてほしいと思っています。最初はそれで満足していたのですが、やっぱり見ているだけじゃ我慢ができなくなってあの公園で声をかけました」
あぁ、真夜さんは変わらない。
一番最初に食事をした時もただ純粋に私の幸福を喜んでくれた。
自分の幸せを直向きに願ってくれる、そんな人間が世界に何人いるだろうか。
存在すら奇跡のような人から愛までもらってしまっている。
「ありがとうございます。今は私も真夜さんに幸せになってほしいと思っています。叶うなら私の手で幸せになったほしい。でも、私はいつも貰っているばかりです。本当に私でいいんですか......?」
真夜さんから貰った愛を果たして私は返せるのだろうか。
こんな大きくて美しくて優しい愛なんて今まで受け取ったことがない。
真夜さんの私への理解と、私の真夜さんへの理解はきっと天と地ほどの差があるのだ。
私の不安が伝わったのか真夜さんは包み込むような柔らかな笑みを浮かべて、真っ直ぐな本心を伝えて安心させてくれる。
「はい。明理さんがいいんです。明理さんじゃないと嫌なんです。僕だってあなたから沢山のものを貰っていますよ。ご飯を作っているときも、あなたが美味しいと笑ってくれることを楽しみにしています。あなたと食べるご飯が一番美味しい。あなたと遊ぶのが世界で一番楽しい。あなたが隣にいると胸がぽかぽかして、頭がふわふわします。何かわからないけど落ち着くし、この時間がずっと続けばいいと思います」
「……もしかして、真夜さんも幸せだと思っていますか?」
「そうかもしれないです。いつも痛くて苦しい愛しか知らなかったので、こんなに温かで優しい感情をもらったの初めてです」
痛くて苦しい愛、確かに真夜さんはそう言った。
たまに真夜さんは人との愛情やらコミュニケーションを知らずに生きてきたのではないかと感じることがあった。子供のように無邪気で、野生の動物のように無知で、突拍子もないことをする。
正直、始めは少し可哀想だと思っていた。あまりに当たり前で当然のことを知らないので、同情したこともある。
でも、それなのに真っ直ぐでひたむきな愛を一生懸命伝えてくれるのが嬉しかった。
私も真夜さんを幸せにしたいと今では切に願うほどに。
「私も真夜さんといるとこんなに幸せになれるんだって驚いてばかりです」
「僕の気持ちちゃんと伝わっていますか?伝え方がわからなくて」
「しっかり伝わっていますよ。こんなに幸せでいいのかって思うくらい毎日真夜さんのお陰で幸せです」
「もっと伝えたいです。僕の気持ちが明理さんいも見えればいいのに」
「それはちょっと難しいですね。でも、私も真夜さんが隣にいれば幸せなのでこれからも隣にいてくれれば十分ですよ」
「明理さんもそう思ってくれていますか?」
「はい、噓はついていません」
「僕、今生きててよかったって思っています」
「あら、嬉しいです。実は私も思っています」
真夜さんはただでさえ大きな目を見開いてまた泣き出してしまう。
今日の真夜さんはどうやら泣き虫らしい。
ぽろぽろと零れる涙がキラキラして見えてなんだか儚く見えてしまい、真夜さんの隣に移動して、ぎゅっと抱きしめる。
泣きたいときは我慢せずに沢山泣いた方がいい。
泣くのならば一人でなんて泣かないで、私の前で泣いてほしい。
ここは安心できる場所だと、その心を休めてほしい。
真夜さんは私にしがみつき沢山泣いた。
今まで一人で頑張ってきた分の苦しみを吐き出しているのだろうか。
どうかどうかこの後の人生は幸せで満ちてくれ。
「いっぱい泣きましたね。お水とホットタオル持ってきますね」
「今日、帰らないです」
「さては今の私が何でも願いを叶えてあげたモードなのを分かっていての言葉ですね」
「今日お泊まりします」
「……ダメです」
「何もしません。本当にダメですか?」
私の服の袖を掴んで小首を傾げるのはやめなさい。
そのワイシャツのポケットに万札を突っ込むぞ。
涙でうるうるしているお目目でこっちを見ないで。
「……ダメじゃないかもです」
「いいって言ってください」
「今日だけですよ」
「嬉しいです。お泊まりセット持ってきてよかったです」
「話変わるな」
「言質は取りました。お風呂沸かしてきます」
「本当に自由すぎる。私の家なんですけど」
ちなみにですが、本当になにもありませんでした。
まぁ、予想通りじゃないか。
大人二人が寝ているせいでぎちぎちのベッドで天井を見上げる。
真夜さんは元気に爆睡している。
抱き枕が必須派なのかすんごい絡みつかれていて私は寝にくいけどね。
ドキドキしている自分が悔しい。