初めてお泊まりをしたあの日から私たちの距離は更に縮まった気がする。
でも、それで満足をしてはいけない、私にはやらねばいけないことがあるからだ。
大問題も大問題、肝心の「好き」を伝えられていないではないか。
一応「幸せ」とか「一緒にいたい」とかで好意はやんわり伝えているが、もっとストレートに伝えたい。
大人の中の大人はもしかすと「好き」なんて言葉なくして付き合っているかもしれないが、私はやっぱり「好き」を言い合って真剣に付き合いたい。
今の状態から一歩進んで、恋人だよね?みたいな雰囲気から脱却したい意図もあるけど、好意には好意を返せるようになりたいのだ。
真夜さんにしてあげたいこと、一緒にしたいことが沢山ある。
このまま、なあなあにして真夜さんの好意を貰ってばかりではなく、私もバンバン伝える関係。
正直、もう付き合っているみたいな雰囲気でているのはわかっている。
ご飯も一緒に食べて、お泊まりをしているから尚のことタイミングが難しい。
こちとら恋愛経験初心者の女、さらっと「好きです」を伝えることにハードルしか感じない。
私が「好き」です、と言えばさっさと終わる話。胸を張って恋人ですと言いたい。
そのためにも真夜さんにこの気持ちを伝えるんだ!!!!
「明理さん、来週の土曜日の夜、僕のお店でご飯食べませんか?」
「真夜さんのお店ですか?」
「デートのお誘いです」
「行きます!!!」
「気合い十分ですね」
「だって初めて私のお家以外で会うんですよ?楽しみなんです」
「お出かけはあんまり好きじゃないですよね?」
「真夜さんと一緒なら好きです」
「なら、沢山デートしますか?」
「します!」
私を喜ばせる天才か?純粋に嬉しいし、喜んでくれている真夜さんに嬉しいのバフがかかる。
嬉しすぎて真夜さんが帰った後、この部屋はダンスステージになることが決定した。
しかも初デート、告白するにはナイスタイミングすぎる。
もしかして、真夜さんは私の悩みを把握していますか?
否定できないのが何とも言えないが、助かったのは事実。
初デートで告白する意志がぶれないよう血判でも用意しようかと思うくらいに意気込んだ。
「あと、これプレゼントです」
「唐突すぎる」
真夜さんが鞄をゴソゴソしながら出してくれたのは兎のマスコットの置物だった。
白い兎が花束をもっていて可愛い。
チョイスが謎なところも面白くて好きです。
「いつも遊んでくれるお礼です」
「その理由だと貰えません」
「なんでですか?」
「私も楽しくて、真夜さんと遊ぶのが好きで遊んでいます。だからお礼は貰えません」
「嬉しいですけど、困っています」
真夜さんは眉を八の字にして絵文字のように困っています!と表情でも伝えてくれる。
でも、私も困ってしまう。お礼をもらうことではないのだから。
「どうしてですか?」
「この兎が明理さんにそっくりなので貰ってほしいからです」
「じゃあ初デートお誘いの記念にもらっていいですか?」
こんな可愛いを突き詰めた兎と私が似ているのだろうか。
真夜さんの目には私がどう見えているのか気になるが、似ているだなんて言われてば貰いたくなってしまう。
私の言葉に真夜さんはにこにこと嬉しそうに笑いながら兎の置物を渡してくれる。
「はい。ではプレゼントです」
「ありがとうございます。仕事のデスクにおいて癒されます」
「それ持っている明理さんの写真を撮ってもいいですか?」
「え、メイク直しします!」
「撮りますね」
「さらっと流された」
「明理さんはいつでも可愛いですから」
「写真を拒否します!」
「可愛く撮れました」
「いつの間に?撮り直ししてください!」
準備は他に何が必要だろうか。
可愛い服も着た。新しい靴も玄関に出している。髪型とか変じゃないかな。
えー!初デートだって!嬉しすぎて家中の小物に報告するくらいに舞い上がっている。
多分報告された兎柄のマグカップは確実に引いているだろうが気にもならない。
デートってこんなに活力もらえるんだ。
ワクワクして待ち遠しいし、自分磨きがさらにヒートアップしていた。好きってすげぇや。
後で振り返ったら恥ずかしいくらいの浮かれようだが、何が悪いと開き直ってさえいる。今浮かれなくていつ浮かれるというのだ。もう人生のピークかもしれない。
時間に余裕を持てるようにかなり早めに家を出て、約束をしていた駅に到着をする。
駅のお手洗いでメイク直しをするお姉様方を毎度すごいなと思っていたのに自分がその立場に立つとは思いもよらなかった。
待ち合わせ時間より大分早いが落ち着かなくてソワソワしながら駅の入り口で待っていると、何ということでしょう、真夜さんがこちらに向かってくるではないでしょうか。私たち以心伝心?
「明理さん、早いですね」
「落ち着かなくて、真夜さんこそ早いですよね」
「明理さんが駅に早く駅に着いたので迎えに行こうと思って」
「……私、別に連絡していないですよね」
「今日は特別に可愛いです。ワンピース似合っています」
「ヴぁ!!!」
「もしかして僕、威嚇されましたか?」
「ずるい!私の情緒を返して!」
「免罪です。盗んでいません」
「真夜さんもカッコイイです」
「本当ですか?死ぬときはこの格好にします」
「スケールが壮大ですね」
「明理さんに初めてカッコイイと言われたので」