真夜さんとは随分軽口を叩けるようになったものだと感慨深くなる。
駅からお店までの道中でもふざけた会話をしながら真夜さんの後に続いた。
「ここが僕のお店です」
「お邪魔します、わぁ!凄いオシャレですね!」
上品に扉をあけてエスコートをしてくれるので、なんだかお姫様にでもなった気分になってしまう。
店内はシンプルだけど所々にある小物がとんでもなくオシャレな空間を醸し出している。
爪の垢を煎じて飲みたいくらいにオシャレな部屋とは何かを身をもって教えてくれる。
棚の上すご、私の家だったら即座にドミノ倒しが行われて、一瞬で床の踏み場がなくなるはずだ。
「お気に召したようでよかったです」
「場所が違うだけでドキドキしますね」
「本当ですか?色んなところにお出かけしましょうね」
「はい!」
「大体は作り終わっているので後はメインだけ焼くので少し待っててくださいね」
「何か手伝いましょうか?」
「今日はご招待なので。それに綺麗なワンピースに匂いがついてしまいますよ」
「ありがとうございます。ではソワソワしながら待っています」
キッチンと向かい合わせのこの席は真夜さんが真剣に料理をしている姿がよく見えた。
真剣な顔がかっこよくて、ご尊顔を盗み見ている状況がなんだか悪いことをしているように感じる。
あぁ、本当にかっこいい、素敵な人だと惚れ惚れしてしまう。
今日この人に好きだと伝えられる状況が奇跡のようじゃないか。
真夜さんが料理をしているのを眺める時間ならいくらでも堪能できる、正直時間なんて感じてなかった。
「お待たせしました」
「全然待ってませんよ。料理している姿を見ているの楽しかったです」
「そういえば明理さんの前で料理したことはなかったですね」
「なんか新鮮でした」
真夜さんはキッチンからこれまたオシャレに盛り付けされたお肉が乗ったお皿を持ってくれば、色とりどりの料理が並んだテーブルの中央に置いた。
普段は和食を作ってくれることが多いけど、今日はイタリアンがメインらしい。涎が止まらない。
真夜さんが作った料理は全て美味しいと確信している。ただのパブロフの犬。
早く食べたくてそわそわする私に笑いながら、グラスにスパークリングワインを注いでくれる。
「これは甘口で度数も低いので安心してくださいね」
「ありがとうございます。もう何もツッコミません」
「そんなところありました?」
「とてもありましたね。料理、本当にありがとうございます!凄い美味しそうです!」
「じゃあ食べましょうか」
私と同じスパークリングワインが注がれたグラスをもつ真夜さんは絵になりすぎている。
見惚れてしまいそうであるが、態度には出さずに何食わぬ顔でグラスをもつ。
「「乾杯」」
お馴染みの合図とともに、ガラスがぶつかる軽やかな音がした。
あまりお酒は飲みなれていないため恐る恐るグラスを傾け、口をつけるがフルーツのような香りと軽い口当たりに感動してしまう。
「このワイン!凄い美味しいです!え、こんな美味しいのがあるんですか!」
「明理さんが好きそうだと思ったので」
「何から何までありがとうございます。もう私のスペシャリストみたいになっていますね」
「望むところです」
「望まないでください。あの、食べていいですか?」
「ぜひ、明理さんのために作りました」
「では、いただきます」
「いただきます」
もうよりどりみどり、この光景を焼き付けたい。
一体どれから食べようか。どれも美味しそうで初手から迷ってしまうが、可愛いカップに入ったかぼちゃのスープに口をつける。
やばい、美味しすぎて口の中がパラダイス、天国はここにあった。
スープ1つでここまで美味しいっておかしい。その料理の腕前を少しでも身につけたいものだ。
「美味しすぎる。真夜さん天才だぁ」
「よかったです」
「今日デートに誘ってくれてありがとうございます」
「そんなに喜んでもらえると作った甲斐がありますね」
今度はサラダにフォークを伸ばす。クルトンとカリカリに焼かれたベーコンが入ったシーザーサラダは美味しいのはもちろん、食感すら楽しい。
今日いっぱい食べてぷくぷくなボディになっても後悔はない。目の前の誘惑に負けるタイプです。
ずっと食べたいと目を光らせていたお肉もそわそわとしながら口に運べば、もう言葉もでまい。美味しすぎてお肉だけじゃなくて語彙力も溶けた。
「真夜さん、全部美味しいです、美味しすぎます」
「なんだか幸せを理解してきました」
「本当ですか?じゃんじゃん見つけていきましょう」
「明理さんが僕の作った料理を美味しいって食べてくれるの幸せです」
そんな優しい目で微笑まないでほしい。
そんな愛しいと言わんばかりの顔を向けないでほしい。
幸福と喜びで胸がいっぱいになり、食べるのに動かしていた手は止まってしまう。
「ふふ、明理さん、顔真っ赤ですよ」
「ちょっと酔っただけです!」
「可愛いです」
「真夜さんも酔っ払ってますよね!」