出会って2回目不法侵入事件の日に連絡先を交換して、頻度は多くないが近況を連絡しあう程度には仲良くなった。
いや、それ以上に5日に1回くらいの頻度で家に来ては作り置きを作ってくれている仲だと言おう。
もう不法侵入は許した。合鍵を一度も渡したことはないが、私の好みどストライクの作り置きを作ってくれているのだ、感謝しか感じない。慣れたともいうが。
それにしても時間とかお金とか諸々、お手間をかけているので、ざっとで換算した食費とお礼分のお金をいれた封筒をキッチンに置いておくが毎回スルーされている。
いらないと言われても流石にこの作業量をそのまま受け取るのは好意にあぐらをかいているようでいやだ。ラインで他にお礼できることがないかと聞けば「一緒に遊びたいです」という謎のご要望をいただいた。
明理:お代をもらってください、さもなければ欲しいものを言ってください
真夜:疲れていますか?
明理:望みを言ってください、言わないと今日作ってくれた作り置き、今日だけで食べきります
真夜:そんなにお腹すいているならどうぞ
明理:望みを!言って!ください!
真夜:ダメって言わないですか?
明理:違法性がないことでお願いします
真夜:一緒に遊びたいです
明理:え、そんなことでいいんですか?
真夜:一緒に遊びたいです
明理:是非遊びましょう!何かしたいことでもありますか?
真夜:わからないです
明理:え、じゃあ好きな遊びとかありますか?
真夜:遊んだことないのでわからないです
明理:……トランプとかボードゲーム、テレビゲームとかどうですか?
真夜:したいです!
明理:任せてください!色んなゲームしましょう!
要望として正直そんなことでいいのかと思わなくもないが、「遊ぶ」ということを知らないようなので中々に責任重大な気がする。
変なものを教える気はないが、偏った遊びになってしまわないだろうか。
私も詳しい方ではないので、最近の流行りや面白いものがないかお店を見て回る。
2人でできそうなカードゲーム、ボードゲームを吟味しながらカゴに入れる。
個人的大本命のゲーム機とカセットも勿論カゴに入れた。
自分だけが買う理由だと中々手が出せないが、お礼なのでこのくらい買わせてくれという気持ちだった。
ちなみに、あまりにも大量のゲームを買っている大人が不思議だったのか5歳くらいの男の子にこそっとサンタさんですか?と聞かれた。
ちょっと季節先取りしすぎだと思う。
なんて答えるのが正解なのかわからずに真剣な顔で「協力者です」と言ってしまった。もっと言い方あるやろ。
ゲームを買い込んだ3日後、仕事から帰ってくると久しぶりに真夜さんが家にいた。
先日買ったゲーム機をもってスタンバイしてお出迎えされる。お目目がきらきらしていて、はしゃいでいるのがよくわかる。
「おかえりなさい、ご飯作りました、ゲームしたいです」
「ただいまです。ありがとうございます、食べたらゲームしましょう」
「絶対ですか?」
「勿論です、真夜さんとゲームしたくて買ってきました」
その時の真夜さんの雰囲気といったら、背景に虹がかかるかのごとくぱぁっと華やいだ。妖精さんがはしゃいでらぁ!
やめてください、興奮して江戸っ子になんてならないで。
楽しみなのかソワソワと落ち着きのない真夜さんは大変和む。日々の癒し、社畜のオアシス、殺風景な部屋に咲く一輪の花。
そんなに楽しみにしてくれるなんて私まで嬉しくて、遊ぶのが楽しみになってしまう。
ご飯を食べ、そそくさと洗い物をすれば2人で横並びになってゲームを始める。今日は1対1の対戦ゲーム。
ゲーム機の操作にぎこちなかった真夜さんが微笑ましかったのに、最後の頃はこちらまで真剣にやらなければ負けてしまうほど、白熱したバトルになる。
多分お互い負けず嫌いのせいで部屋の熱気は凄いことになっている。
暑い、暑すぎる、スポーツ観戦をしているスタジアムのごとく、正直手に汗もかいてきた。
でも、こんなに白熱して夢中でできるからこそ楽しい。大人になって誰かとゲームに打ち込むことがなかったから楽しくて仕方がない。
そんな雑念のせいだろうか、それとも成長スピードというか学習力が異常なほどに高い真夜さんが凄いのか、等々負けてしまい集中力が切れてしまう。
凝り固まった体を伸ばし、心地よい疲労感から床にばたりと倒れる。
省エネモードになった体は寝ころんだまま時計をみれば、かなり夢中で遊んでいたことがわかるほど時計の針は動いていた。
「え、いつの間にこんな時間になってましたね」
「なってません」
「なってます、時計を見てください」
「嫌です」
「拒まないでください。今日は遅いのでそろそろお開きです」
「まだ遊びます」
「ダメです」
「帰らないです」
「そんなきゅるきゅるのお目目で見ないでください」
「遊びたいです」
「……次いつ遊びますか?」
次の予定を決めることで勘弁してくれという思いでいった言葉であるが、真夜さんはにこにこと無邪気に笑った。
は?可愛すぎなんだけど。綺麗にも可愛いにもなれるってなに?最強なの?
意味わかんない、世界一可愛い、子猫にも勝てそう。語彙力はさっき玄関からスーツケースを引きずって出て行ったので、多分もう帰ってこない。
クリティカルヒットをして悶えている私をよそに次回の確約ができたことで満足したのか、真夜さんはマイペースに帰宅の準備をしている。
この人、自由だよな。